株式会社と合同会社の比較|出資者・役員・設立費用などの違いとは
会社形態には種類があり、株式会社以外にも合同会社や合名会社、合資会社を設立してビジネスを始めることが可能です。特に多いのは株式会社ですが、近年は合同会社の設立も珍しくなくなりました。
「株式会社か合同会社か」この選択で悩むケースがよくあるため、ここでそれぞれの特徴について説明し、両者の比較、そしてどのような場合にどちらの会社形態が適しているのかを解説していきます。
会社の4つの種類について
会社法では①株式会社、②合同会社、③合資会社、④合名会社の存在が認められています。まずはそれぞれの概要を押さえておきましょう。
4つの会社形態の特徴 | |
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株式会社 | 「株式」の発行により投資家から資金調達し、その資金で事業活動を行なう会社。原則として誰でも出資することができ、事業が上手くいって利益が上がると株価も上がり、配当金や株主優待の面で株主にも利益が返ってくる。 そのため自己資金がなくても出資者を集めることができれば大きな資金力を得て規模の大きな事業が始められる。 ※機関設計により1人で設立することも可能。 |
合同会社 | 法律上定義されてからの年数が比較的浅く、新しい会社形態。株式会社と似た特徴を持つ。株式会社と同様に出資者の責任は有限で、1人で設立することもできる。 設立のハードルがやや低く、意欲的なベンチャー起業家が採用することが多い。 |
合資会社 | 無限責任社員と有限責任社員から構成される会社。最低でも2人以上の社員が必要。 |
合名会社 | 無限責任社員のみで構成される会社。最低1人の社員で設立可能。 |
株式会社と合同会社の違い
採用される件数の多い株式会社および合同会社に着目して両者の特徴を比較します。要点は下表のようにまとめられます。
| 株式会社 | 合同会社 |
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出資者 | 株主 | 社員 |
出資者の責任 | 出資した範囲(有限) | 出資した範囲(有限) |
出資分の譲渡 | 原則自由 | 社員間のみ自由 |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
会社役員 | 取締役、監査役、会計参与 | 社員 |
役員の任期 | 取締役:原則2年(最大10年) 監査役:原則4年(最大10年) | 制限なし |
意思決定機関 | 株主総会 | 社員全員の同意 |
設立手続 | ・公証人による定款の認証が必要 ・実質的支配者となるべき者の申告が必要 | ・定款の認証は不要 ・実質的支配者となるべき者の申告は不要 |
設立費用 | ・認証手数料最低3万円 ・設立登記の登録免許税は最低15万円 | ・認証手数料は不要 ・設立登記の登録免許税は最低6万円 |
決算公告 | 公告義務あり | 公告義務なし |
出資者について
株式会社における出資者は「株主」、合同会社における出資者は「社員」です。
株主は従業員とは異なりますし、会社の業務に従事するわけでも経営者として活動するわけでもありません。それらを兼ねることはできますが、経営を取締役に委任するのが基本的なスタイルです。
一方の合同会社における社員は、出資者であるとともに会社の経営を担う存在でもあります。「実際に業務を担う従業員や役員」と「会社所有者としての意思決定権を持つ株主」のように、立場が分離していません。その結果、意思決定も迅速に行うことができ、出資者間の繋がりもより濃くなります。
また、出資者としての地位はいずれの会社でも譲渡することができるのですが、原則自由の株式会社とは違い、合同会社では自由に外部に譲渡することができません。
とはいえ、株式会社でも多くの場合譲渡制限を設けています。定款にその旨を記載して制限をかけることで、外部の者に経営権を取られないようにするのです。家族経営をしている中小企業などでは必要なルールといえるでしょう。
役員について
株式会社では「取締役」「監査役」「会計参与」の3者が会社役員です。
一方合同会社は社員がすべて役員でもあります。
また代表者についても株式会社では「代表取締役」という肩書であるのに対し、合同会社では「代表社員」という肩書が付けられます。
役員の任期についても大きな差があります。株式会社では株主の権利保護と取締役の権限抑制を上手く調整する必要があり、権限抑制の観点から任期が設けられています。そこで取締役は原則として2年(定款の定めにより最大10年まで伸長可能)までと法定されています。
再任は可能ですが、その際は株主の意見を聞く必要がありますので、取締役としてふさわしい仕事をしていない場合は継続することができなくなります。
一方の合同会社では役員=出資者の関係式が成り立つため、権限を抑制する必要がありません。そこで任期の制限も設けられていません。
設立費用について
株式会社より合同会社の方が設立費用は低い傾向にあり、手続も少し簡略化されていますので設立しやすいといえるでしょう。
大きな違いとしては、「公証人による定款認証の必要性」が挙げられます。
株式会社の場合は株主やその他利害関係者が増えるケースが多いため、公証人という法律のプロにチェックしてもらう過程が必須とされているのです。そしてその認証には手数料として最低でも3万円が必要です。
合同会社でも定款は必要ですが、認証手続を進める必要がなく、認証手数料も発生しません。
「設立登記の登録免許税」の面でも差があります。
両者とも資本金の0.7%で税額が計算されるため、資本金額が一定額以上の場合は同額となります。しかしながら最低額の定めがあり、「株式会社:15万円「合同会社:6万円」となっています。
信用度について
会社形態の違いが信用度に影響する可能性もあります。
株式会社の方が知名度は高いです。合同会社は株式会社に比べると知名度に劣るため、一般消費者や取引先などからの信用獲得の面で少し劣るとも考えられます。
ただ、合同会社が誕生してから20年近く経過しており、すでに多くの合同会社が設立されています。大企業が合同会社という形態を選択する事例も出てきており、信用度について大きな差があるとまではいえなくなっています。
誰をターゲットにビジネスを展開するのか、名称の違いが与える影響、印象の違いなどを考慮することは大事ですが、あまり深く考えすぎる必要はないかもしれません。
会社形態の選び方
4つの会社形態がありますが、営利目的の事業を営む場合はリスクを出資額に限定することができ、債権者から直接の請求を受けない「株式会社」または「合同会社」を選ぶのが無難です。
株式会社の場合、数名の同族株主で支配するごく小規模な会社から数万人規模の株主を抱える公開会社まで、あらゆる規模に対応ができます。規模が大きくなると重要事項の決定のために株主総会開催が必要になるなど意思決定に大変な手間が発生しますが、将来的に組織の拡大を目指す場合でも株式会社の方がスムーズで、適しているといえるでしょう。
他方、合同会社は社員の個性、社員同士の繋がりが重視される会社形態です。持分の譲渡が自由にできない反面で、株式会社より柔軟に組織設計することができます。スピード感を持って意思決定することが可能で、特に機動的な事業展開を目指す場合に適しているといえるでしょう。
また、「早く設立手続を終わらせたい」「少しでも安く設立したい」というニーズがある場合にも合同会社が選ばれます。
なお、会社形態の変更も不可能ではありません。手続の負担がかかりますが、将来的に「多くの投資家から株式を使って出資して欲しい」という要望が出てきたときには合同会社から株式会社に組織変更することもできます。
なかなか自分だけで決められないというときは、法律問題、会社設立に強い司法書士などを頼り、相談することをおすすめします。