なぜ公正証書遺言が推奨されるのか|他の遺言書との違いや安全性について解説
遺言書を作成する方法にもいくつかあるのですが、そのうちよく推奨されているのは「公正証書遺言」と呼ばれるタイプの遺言です。
公正証書遺言は他の遺言書に比べて安全性が高いといわれており、無効になってしまったり紛失してしまったりするリスクが低いです。
なぜ安全な遺言書といわれているのか、他の遺言書とどのような違いがあるのか、ここで整理していきます。
公正証書遺言が良いとされる理由
公正証書遺言は次の点からおすすめといえます。
- 形式的不備の心配が不要
- 遺言能力の有無が問題となりにくい
- 安全に保管してもらえる
なぜ形式面や遺言能力で問題となりにくいのか、保管の心配が不要なのか、以下で説明していきます。
形式的不備の心配が不要
遺言書は法律で定められている方法により作成されなければ無効となってしまいます。
例えば遺言者の自書により1人で作成する自筆証書遺言だと次のように作成方法が指定されています。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
封をした遺言書を公証役場で認証してもらう秘密証書遺言では次のように作成方法が指定されています。
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
「知らなかった」で通用する問題ではありませんし、問題が顕在化するのは遺言者が亡くなってからですので取り返しがつきません。
公正証書遺言でも指定の方法によって作成されなければいけませんが、作成時には法律の実務家である公証人が関与しますので、遺言者自身が詳しく作成方法を理解していなくても問題にはなりません。
遺言能力の有無が問題となりにくい
遺言書を作成するときは、前項の通り指定の方法に従い形式的要件を満たさなければいけません。
これに加えもう1つ重要なのが「遺言能力を持った遺言者が作成を行うこと」です。
遺言能力とは、遺言内容についてその法的な意味や結果について理解ができる能力を意味します。
そしてこの遺言能力を持つ方が作成をしなければ、その遺言書は無効となってしまいます。
この点が問題となりやすいのは特に遺言者が認知症になっているときです。
認知症であるとの診断を受けている場合、死後、遺言内容に不満を持つ方が「作成当時、遺言能力はなかったはずだ」と主張して争いになる可能性があります。
しかしながら、公正証書遺言であれば作成過程で公証人が遺言者に質問をするなどして遺言能力についてのチェックも行われます。
それでも遺言能力が問題となる可能性はゼロではありませんが、自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べるとかなりリスクは抑えられるでしょう。
安全に保管してもらえる
公正証書遺言だと、作成後の原本は公証役場で保管してもらえます。
他の遺言書だと自宅で保管したり銀行の貸金庫に預けたり、遺言者自身で考えて安全に管理し続けないといけません。そのため紛失の危険性もありますし、悪意ある方によって改ざんされてしまう危険性もゼロではありません。他方、厳重に保管しているとその後遺言書を発見してもらえないリスクも出てきます。
自筆証書遺言との比較
自筆証書遺言にも良いところはあります。例えば「手軽にいつでも作成ができる」「作成費用がかからない」などの利点が挙げられます。
公正証書遺言だと公証役場にアポを取り、期日には証人2人以上を用意して公証人とともに作成手続きを進めなくてはなりません。
その際、遺言の対象となる財産の価額に応じて数万円以上の手数料も発生します。
また、自筆証書遺言等だと保管に関する問題があると説明しましたが、この点についても法務局で運用されている保管制度を利用すれば解決することが可能です。保管手数料3,900円を負担すれば、原本を法務局にて安全に保管してもらえます。
秘密証書遺言との比較
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の両方の性質を兼ね備えた遺言書です。
自筆証書遺言のように1人で作成し、その後封をしたものを公証役場に持って行き認証をしてもらうのです。
そのため、遺言書の存在については公的に認めてもらいつつも、遺言の中身は誰にも知られず秘密にできるという利点があります。
他方、公正証書遺言ほどの安全性・有効性の担保が得られないにもかかわらず証人の用意と公証役場での手続きが発生するという難点も持ち合わせています。
もし遺言書の作成を検討しているのであれば、司法書士などの専門家に相談し、ご自身に合った遺言書の提案をしてもらうと良いでしょう。
また、専門家がついていれば法的に無効となってしまう遺言を防ぎやすくなり、着実に遺産相続についての指定ができます。