法人と個人事業主の比較| 税金や業務の負担、事業規模、信用力の違いについて
法律上、権利義務の主体になれる「自然人(個人のこと)」と「法人」が存在しています。どちらの人格であっても事業を立ち上げて運営していくことは可能です。自然人が事業主体になるときは個人事業主と呼ばれ、法人に関しては株式会社や合同会社などが代表的な例といえます。
ただ、事業主体の違いは税金の負担や業務量の多さなどに影響してきますので、どちらを選んでも同じということはできません。
ここで主な違いについて紹介します。
税金の負担が違う
法人と個人事業主の違いとしてよく着目されるのが「税金の負担」です。
それぞれ課税される税金が違っており、税率も異なります。法人の場合は赤字であっても税金の負担が避けられないという事情もあって、「利益が大きいほど法人の方が有利・利益が小さいほど個人事業主の方が有利」の傾向にあります。
法人税と所得税の比較
法人の所得については「法人税」が、個人事業主の所得については「所得税」が課税されます。これらの違いは簡単にまとめると次のようになります。
- 法人税:所得が増えても一定の税率が適用される
→ 法人の種別・資本金額などにより「15%」「19%」「23.20%」のいずれかが適用される - 所得税:所得が増えるほど大きな税率が適用される
→ 所得金額に応じて5%~45%が段階的に適用される。
所得税は税率が固定ではなく累進課税制度を採用しています。売上から経費等を差し引いた後の課税所得の金額を基に、税率および控除額が定まります。
課税所得の金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
仮に算定の基となる金額を150万円とした場合、所得税は「150万円×5%=7.5万円」、法人税(税率は23.20%とした場合。)は「150万円×23.20%=34.8万円」です。このときは所得税の方が小さな負担で済みます。
一方で4,000万円を基に計算すると、所得税は「4,000万円×45%-479.6万円=1,320.4万円」、法人税は「4,000万円×23.20%=928万円」です。
このときは法人税の方が負担は小さくなります。
経費計上の範囲
売上が大きいときでも、経費も大きければ利益は小さくなり、税額を算定するための課税所得が小さくなります。
そしてこの経費として計上できるものの範囲に違いがあります。
いずれも仕入費や消耗品費、人件費など、多くの部分で共通はしています。しかし個人事業主は自分自身が手取りとして受け取る金銭を経費とすることはできませんし、家族を従業員とするときにも制限が入ります。
法人であれば退職金を経費にすることができますし、生命保険料を経費計上できるケースもあります。福利厚生で節税効果を得ることも法人なら可能です。
バックオフィスの負担が違う
個人事業主よりも法人の方がバックオフィス業務の負担は重くなる傾向にあります。
日々の経理、決算業務等に対する負担が異なりますし、社会保険に係る手続にも違いがあります。法人だとまず社会保険の加入が必須です。
従業員が0人の会社でも代表者についての社会保険加入が必要となるからです。
従業員を雇用するときは個人事業主にも社会保険への加入義務が課されることがありますが、従業員数5人未満ならその負担は軽減されます。
事業規模が違う
法人と個人事業主の違いだけで事業規模が変動するわけではありませんが、法人の方が大規模な事業に適しています。
そのため個人事業主として活動をしていたとしても、徐々に事業規模が大きくなってきたときは法人成りするケースもあります。
法人の場合、例えば株式会社だと事業主体が組織化されます。代表者は取締役となり経営に携わり、その他監査役などの機関を設置していき、さらに株主から出資を受けることで事業者としての力を高めていくことができます。
個人事業主はチームでの運営が想定されておらず、良くも悪くも1人ですべて意思決定できてしまいます。
信用力が違う
前項のチーム運営の問題とも関わってきますが、法人と個人事業主とでは信用力にも違いがあります。
傾向としては法人の方が信用力は高く、より大きな取引、より広く取引を交わしやすくなります。
個人事業主であってもその方自身にネームバリューがあるなど特別の事情があれば大きな信用力を得ることはできます。
しかし個人のことを知らない方からすれば、取引に際して少なからず不安を感じてしまうことでしょう。
これは個人事業主としての開業が非常に簡単であることも関係しています。法人を設立するには資本金を出資し、登記も行わないといけません。
厳格な手続を経て、費用もかけて設立していますので、それだけの覚悟をもって事業を営んでいるのだということが対外的にも伝わります。
しかし個人事業主に求められているのは開業届の提出のみです。
費用ゼロで始められるため、契約を交わしたものの「そんな事業は存在していなかった」などといったリスクを相手方が負うこともあります。
法人でもそのリスクはゼロではありませんが、登記を確認して存在の有無については確認ができます。
個人事業主からの法人成りも検討しよう
法人と個人事業主にはそれぞれ異なるメリット・デメリットがあります。事業規模を大きくしていく予定があるのなら法人の方が適していますし、複数の経営者を置き、従業員も雇って組織として運営していきたいときも法人にすべきです。
一方でまずは自分1人で事業を立ち上げたいとき、スモールスタートをする、規模の大きなことをする予定はまだない、といったケースでは個人事業主の方が適しているかもしれません。
一概に判断することはできませんが、個人事業主の方が機動的に動くことができますし、利益が小さいときの税負担も低く抑えることができます。
そして規模大きくしていきたくなったとき、利益が大きくなってきたときには、後から法人成りすることもできます。