経営者が知っておきたい資本金の増資手続きの要点
資本金の増資は返済義務のない資金調達手段としても活用され、会社運営において重要な意味を持ちます。しかし増資は簡単に実施できるものではなく、法律上の要件を満たしつつ一つずつの手順を着実に進めていかないといけません。
適切な知識なしに進めると思わぬトラブルを招く可能性がありますので、特に押さえておくべき増資手続きの要点をここでご確認ください。
増資とは
増資とは会社が資本金を増やす行為を意味し、株式会社においては新たに株式を発行し、投資家や既存株主から出資を受けることで資本金を増加させることができます。
融資で得た資金だと負債として貸借対照表に計上され、利息の支払いと元本の返済義務が発生しますが、この増資による資金は純資産として計上されて返済の必要もありません。
ただし新株主には配当請求権や議決権などの株主権が付与されるため、既存株主の持株比率には影響を与えることになります。
また、増資を行うことで会社の財務基盤が強化されると、金融機関や取引先からの信用度向上という効果も期待できます。自己資本比率が改善されて、将来の融資条件改善につながる可能性もあります。
このように、増資は単なる資金調達ではなく会社の成長戦略において重要な意味を持つ行為といえるでしょう。
株式会社における増資の方法
株式会社がする増資には主に次の3つの方法があります。
主な増資の手法とその特徴 | |
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株主割当増資 | ・持株比率に応じて新株を割り当てる方法 ・持株比率の維持が可能で、新たな第三者が登場しないことから経営権の分散を回避できる ・既存株主の資金力に依存するため、調達規模には限界がある |
第三者割当増資 | ・会社が選定した相手方(投資家や事業パートナーなど)へ新株を割り当てる方法 ・出資者を戦略的に選択可能で、シナジー効果やネットワーク拡大が期待できる ・持株比率が低下し、現状の経営権は希薄化するおそれがある |
公募増資 | ・証券市場を通じて広く募集をかける方法 ・大規模な資金調達が可能で、知名度の向上も期待できる ・手続きが複雑で、利用できるのも上場会社など限定的 |
これらの方法の中で、中小企業においては「第三者割当増資」が特に活用されています。
増資は6ステップで進める
増資手続きは会社法に沿って厳格に進めていく必要があります。わかりやすく手順を分けると、次の6ステップで説明することができます。
- 発行可能株式総数の確認と変更の検討
- 株主総会で発行数や払込金額などを決める
- 出資希望者からの申込受付
- 株式割当の決定
- 出資金の払い込みを受ける
- 法務局への登記申請
適切な手続きによらず進めてしまうと増資が無効になることがあり、コンプライアンス上の問題も生じるため要注意です。
発行可能株式総数の確認と変更の検討
増資手続きに着手する前に、まずは定款に記載されている「発行可能株式総数」を確認しましょう。
この値は会社が発行できる株式の上限を定めた規定であり、現在の発行済株式総数と今回の増資予定株式数の合計はこの上限を超えないようにしなくてはなりません。
現状の上限を超えて発行・増資する必要があるときは、「定款変更」の手続きも実施して発行可能株式総数を増やす必要があります。
※定款変更を行うには株主総会の特別決議が必要。さらに変更後は法務局で発行可能株式総数変更の登記申請も行わなければならない。なお、同じ株主総会で定款変更(発行可能株式総数の増加)と増資(株式の発行)の決議を行うことは可能。
株主総会で発行数や払込金額などを決める
増資の実行には、原則として株主総会における「特別決議」による承認が必要です。
※特別決議は、議決権を有する株主の過半数が出席して、議決権の3分の2以上の賛成によって成立する。
※上場会社などは取締役会決議で増資が可能。
この決議では、募集株式に関する重要事項を決定します。具体的には、募集株式の数・株式の払込金額またはその算定方法・払込期日または払込期間・増資により調達する資金の使途などです。
出資希望者からの申込受付
株主総会で決定された募集条件に基づき、通知と出資希望者の受付を開始します。
第三者割当増資では、あらかじめ想定している出資候補者に対して直接的な募集を行うことが通常です。
株式割当の決定
受け付けた申込書をもとに、最終的な株式の割当先と各申込者への割当株式数を決定します。
この決定についても株主総会の特別決議が必要です。
※割当先があらかじめ決まっている場合などには、募集事項決議と割当決議を同時に行うことも可能。
※定款で取締役または取締役会に委任できる旨の定めがあるときは、必ずしも特別決議を行う必要はない。
出資金の払い込みを受ける
株式の割当決定後、出資者が指定の期日までに出資金の払い込みを行います。
払込期日は株主総会で決定された期間内に設定しますので、すべての出資者が確実に払込を完了できるよう適切な期間を確保しましょう。
法務局への登記申請
出資金の払い込みが完了すれば、増資の効力を発生させるために法務局での変更登記申請を行います。この登記は、払込期日(または払込期間の最終日)から2週間以内に済ませなくてはなりません。
登記申請の際は、「変更登記申請書」「資本金の額の計上に関する証明書」「株主総会議事録」「払込証明書」などの書類を提出します。また登録免許税として、増資額の1000分の7または3万円のいずれか高い方を納付する必要があります。
増資手続きで注意すべきこと
増資手続きを成功させるために特に重要なポイントを整理しました。
- 登記申請期限の厳守・・・払込完了から2週間以内に登記申請の義務を履行しないと、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性がある
- 特別決議要件の確認・・・株主総会で決議をとる場合、議決権の3分の2以上という大半の賛成が必要であるため、事前の根回しと説明が大事
- 既存株主の持株比率への配慮・・・第三者割当増資により既存株主の持株比率が希薄化してしまうことに留意
- 適正な発行価額の設定・・・極端に安い価格での株式発行は、既存株主の利益を害する可能性がある
- 発行可能株式総数の確認・・・発行できる株式数を確認し、必要に応じて定款変更手続きを行う
これらの注意点を踏まえ、計画的に増資手続きを進めることが成功への鍵となります。司法書士などの専門家に相談することで、より確実で効率的に進められるようになるでしょう。