遺産分割協議で重要なこととは? 相続トラブルや相続税の対策、遺産分割協議書の作成など
相続財産の分け方について遺言書で指定されているときはその内容に従うのが原則ですが、それ以外の場合は遺産分割協議で話し合って分け方を決めることになります。ただ、相続について詳しくない方に対していきなり「遺産について協議しなさい」といわれても困ってしまうのではないでしょうか。
当記事ではそんな方に向けて、遺産分割協議では何をすればいいのか、何に着目すればいいのか、要点を絞って説明をしていきます。
遺産分割協議では何をするのか
そもそも遺産分割協議とは、亡くなった方の持っていた財産について、相続人同士で分け合う方法を協議することを意味します。
遺産分割の当事者である相続人の全員が参加しないといけません。被相続人(亡くなった方)の配偶者であっても、自分だけの意思で好き勝手分割することは認められません。そのため配偶者も年長者も年少者も、相続人であればみんな同じ立場で協議に参加することとなります。
また、「包括受遺者」と呼ばれる人物も相続人と一緒に遺産分割協議に参加します。受遺者は遺言の効果として財産を譲り受ける人物のことであり、そのうち遺産の全部または一部の割合を指定された受遺者を包括受遺者と呼びます。例えば「現金〇〇万円」と指定された受遺者は包括受遺者ではありませんが、「遺産の半分」と指定された方は包括受遺者となり、その割合の限度で相続人と同等の立場に立ちます。そこで遺産分割協議の当事者にもなるのです。
なお、遺産分割協議で話し合いの対象となる相続財産は、遺言書で指定を受けたもの以外の財産です。
全財産について遺言書で指定をされているときは相続人が話し合う余地はありません。
※当事者全員の合意により遺言内容と異なる遺産分割も可能。
遺産分割協議で考慮すべき重要な事項
遺産分割協議を行うとき、考慮しておくべき重要な事項がいくつかあります。
1つは相続人間、あるいは受遺者との間で起こるトラブルを予測し、そのトラブルが起こらないような形で遺産分割をするということです。
もう1つは被相続人と身近な関係にあった家族の生活保障の観点です。
さらに、遺産の分け方が相続税の負担の大きさに関わってくるため、相続税対策も考慮した方が良いです。
これら重要な事項について詳しく説明していきます。
相続人間でのトラブルの防止
相続人や受遺者など、相続に利害関係を持つ人物との間でトラブルが起こらないように注意しましょう。
遺産分割協議は大きな財産が動くきっかけとなりますので、自分の利益ばかりを考えて協議を進めようとしないことが大事です。
そこで分割割合については民法で規定されている「法定相続分」を基準にすると良いでしょう。
法定相続分では全員に均一な相続分を定めていません。被相続人とともに財産の形成に関わったと考えられる配偶者はもっとも優遇されており、次いで被相続人の子ども、そして親や祖父母、最後に兄弟姉妹の順で法定相続分が小さくなっていきます。
《法定相続分の例》
- 配偶者と子どもの場合 =1:1
- 配偶者と親の場合 =2:1
- 配偶者と兄弟姉妹の場合=3:1
※子ども同士、親同士、兄弟姉妹同士は均等に分け合う。
割合に差はありますが、この方法で分割するのが無難といえます。
ただし、過去に被相続人から贈与を受けていたときはその分も考慮しましょう。「生活を支援する目的で過去に500万円の贈与を受けた」「結婚資金として300万円贈与された」「自宅を購入するときに支援として1,000万円贈与を受けた」などの事情があるときは、これを無視して遺産分割したのではその他の相続人から不満が出てきてもおかしくはありません。
家族の生活
平等な遺産分割を意識することも大事ですが、被相続人の経済力を頼りに生活していた配偶者や子どもなどがその後の生活に困窮する可能性があります。
そのような場合は、残された家族の生活にも配慮することが大事です。
生活の拠点となる自宅の相続、そして生活資金となる現金や預貯金をバランスよく分割できないかを検討します。
このとき「配偶者居住権」の付与も考えてみましょう。
自宅となる不動産をまるまる相続し、その上で生活資金まで相続したのでは相続割合のバランスを保てないことがあります。
しかし不動産の所有権を取得するのではなく、その不動産を使って居住する権利だけ配偶者が得ることにすれば、生活資金も獲得しやすくなります。
例えば3,000万円の自宅と3,000万円の現金があるとき、配偶者と子どもが共同相続で均等に分けるなら自宅か現金のいずれかしか取得できません(不動産を現物分割するケース)。
しかし自宅に1,500万円で配偶者居住権を設定することで、「子どもは自宅(配偶者居住権付き)と1,500万円の現金」「配偶者は自宅で住む権利と1,500万円の現金」を遺産分割することが可能になります。
なお、家族の生活保障という観点では「遺留分」という仕組みも設けられています。
遺言書で全財産を第三者に遺贈されているなど、一定の相続人が遺産をほとんど受け取れない場合には、遺留分を主張して金銭の支払いを求めることができます。
法定相続人の立場に応じて遺留分の大きさは決められており、最大で法定相続分の半分を主張し、侵害者である受遺者等に請求ができます。
相続税への対策
誰が何を取得するのかということについて争いがなくても、相続税の問題に直面することがあります。
一定額以上の遺産があるときに相続税は課税され、その額が大きいほど割合大きな税負担が相続人等にかかってきます。
ただし相続や遺贈で財産を取得した方それぞれが使える控除制度もあり、同じ遺産でも分け方次第で相続税の負担は変わってきます。
また、換金が難しい財産が割合多いときは「納税するための現金が足りない」という事態に悩むこともあります。
そのため納税資金も考慮し、現金や預貯金、その他換金が容易な財産の分け方を考えていくことが大事といえます。
相続税に関しては税理士に相談するのが一番です。どのように分けると良いか、どんな控除制度や特例が使えるか、アドバイスをもらっておきましょう。
遺産分割協議書の作成も重要
遺産分割の方法が決まれば、話し合った内容を書面にまとめましょう。この遺産分割協議書がなくても遺産分割協議が無効にはなりません。
しかし各相続人が「私がこの財産を取得しました」と証明するために提出が必要となることが多く、名義変更などの相続手続を円滑に進めるために作成しておくべきです。
また、協議結果を記録していないと「私がこの土地をもらうことで話がまとまったはずだ」などと意見の食い違いが起こって揉める危険があります。
後々都合が悪くなって意図的に間違った主張をしてくる可能性もありますので、こうした危険を予防する意味でも遺産分割協議書の作成は大事といえます
なお、遺産分割協議書の作成方法に決まりはありません。好きな用紙を使い、好きなように書き記していくことができます。
ただし、「誰が被相続人なのか」「誰が相続人や受遺者なのか」「誰が何を取得するのか」「いつ協議が行われたのか」「当事者が協議結果について同意をしたこと」を明記しておくことは最低限必要です。当事者による同意を示すには、各々が署名および押印をすれば良いです。