遺言書の保管方法|保管場所別の注意点と選び方について解説
遺言書を保管する方法は1つではなく、下表のとおりさまざまな方法・場所が挙げられます。
保管場所 | 概要 |
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自宅 | ・自宅の書棚や引き出しなど、遺言者自身で管理しやすい場所へ保管する方法 ・手軽で費用がかからないのがメリット ・紛失や盗難、改ざんのリスクにさらされるのがデメリット |
親しい人 | ・親族や信頼できる知人に遺言書を預けて保管してもらう方法 ・遺言書の存在を相続人に知らせてもらえるのがメリット ・保管者による不正、保管者の死亡などのリスクがある |
専門家 | ・司法書士や弁護士などの専門家に遺言書を保管してもらうよう依頼する方法 ・自宅や友人などが保管する場合より比較的安全性が高く、遺言書作成に関するサポートも依頼できるのがメリット ・保管に費用がかかるのが難点 |
銀行の貸金庫 | ・銀行の貸金庫を借りて遺言書を保管する方法 ・セキュリティ水準が高く安全性がとても高いのがメリット ・費用がかかること、貸金庫の開錠手続きに手間がかかるのが難点 |
法務局 | ・法務局の遺言書保管制度を利用して保管してもらう方法 ・紛失や改ざんのリスクがないこと、遺言書の存在について証明ができること、相続開始後の検認が不要であることがメリット ・費用がかかることや、自筆証書遺言にしか対応していないのが難点 |
公証役場 | ・公正証書遺言の原本を作成した公証役場にて保管してもらう方法 ・紛失や改ざんのリスクがないこと、遺言書の存在について証明ができること、相続開始後の検認が不要であることがメリット ・費用がかかることや作成手続きに手間がかかること、作成にあたって証人の用意が必要であることなどが難点 |
以下では、このそれぞれの保管方法に関する注意点を紹介していきます。保管場所についてお悩みの方はぜひ参考にしてください。
遺言者の自宅で保管する場合の注意点
遺言書を、作成した遺言者自身の自宅で保管することもだめではありません。
自宅で保管する場合は手続きも必要ありませんし費用もかかりません。とても手軽な方法といえますので、できるだけ手間や費用をかけたくない方は自宅保管も視野に入れることとなるでしょう。
ただ、以下の点には注意が必要です。
- 存在と保管場所を伝えておくこと
→ 遺言書を作成しているという事実、そしてその保管している場所を、信頼できる家族や友人などに伝えておくことが重要。遺言書の存在が知られていなければ死後に発見されない危険があり、せっかく作成した遺言書が未発見のまま遺産分割されるおそれがある。また、保管場所を具体的に伝えておくことで相続人の手を煩わせることなくスムーズに遺贈を実行してもらいやすい。 - 自宅でもセキュリティに配慮すること
→ 火災や水害、盗難などのリスクを考慮し、自宅とはいえできるだけ安全な場所を確保してそこに保管しておくべき。いつでも容易に取り出せる引き出しなどではなく耐火金庫などがおすすめ。
親しい人に保管してもらう場合の注意点
遺言者自身ではなく、親族や友人・知人などに保管してもらうことも可能です。
この場合、遺言者が亡くなったときすぐに遺言書の存在について相続人らへ知らせてもらうことができますので、自宅保管における未発見のリスクを回避しやすくなるでしょう。
ただし、以下の点には注意してください。
- 信頼できる相手を選ぶこと
→ 遺言の内容を秘密にできる、責任感のある人を保管者として選ぶことが重要。また、利害関係を持つ方だと不正のリスクが出てくるため、できるだけ推定相続人や受遺者ではない第三者を選択することが望ましい。 - 納得のいく方法で保管してもらう
→ ただ預けるだけでなく、遺言書をどのように保管してもらいたいか具体的に指定しておく。できるだけ安全性の高い方法で保管してもらうように頼むべき。
専門家に保管してもらう場合の注意点
遺言者の身近な方以外でも、例えば司法書士や弁護士のような法律の専門家に保管を依頼できるケースもあります。
この場合、仕事として保管をするため、親族や知人などにお願いをする場合より安全に保管してもらうことが期待できますし、遺言書の作成段階からサポートをしてもらい書き方などについて助言をもらうこともできるでしょう。
ただし、専門家を活用するときは以下の点に注意してください。
- 費用を確認すること
→ 専門家に保管を依頼するには費用がかかる。金額は依頼先によって異なるため、事前に確認しておくべき。また、遺言書の作成に関する相談や代行してほしい作業があるときも別途費用が発生する。 - 遺言書の保管に対応していないケースもある
→ 遺言書作成のサポートができる専門家でも、保管サービスを提供していないケースがある。
銀行の貸金庫で保管する場合の注意点
銀行などの貸金庫を利用して遺言書を保管することもできます。
この場合、遺言者やその他身近な方などが保管する場合に比べて安全性がかなり高く、火災や盗難などの心配をする必要がなくなります。
ただし、遺言書を貸金庫に保管する際は以下の点に注意しましょう。
- 存在と保管場所を伝えておくこと
→ 貸金庫に遺言書を保管する場合、遺言書の存在が確認されないリスクが高まってしまう。そこで、信頼できる人物に貸金庫を利用して遺言書を保管している旨を伝えておくと良い。 - 貸金庫の利用料が発生すること
→ 貸金庫の利用には、年間利用料や保証金などの費用がかかる。また、保管する物の種別によって別途保管料が発生するケースもあるため、費用面も踏まえて長期的な保管が可能かどうか検討すべき。 - 相続人に手間がかかってしまうこと
→ 相続人であっても貸金庫の契約者本人ではないため、貸金庫を開けるための手続きに通常より手間がかかる。この点も踏まえて利用を検討し、必要に応じて相続人にその手続きが必要である旨を伝えておくと良い。
法務局で保管する場合の注意点
法務局に遺言書の保管を依頼することもできます。
これは2020年から始まった保管制度に基づいており、新たな保管方法として注目を集めています。紛失などのおそれがなく、相続開始後の検認手続きが必要なくなるなど利便性も高いのが特徴です。
しかし、以下のような注意点があります。
- 自筆証書遺言のみが対象であること
→ 法務局の保管制度が利用できるのは「自筆証書遺言」に限られるため、秘密証書遺言などには対応していない。 - 遺言者本人が法務局に出向く必要があること
→ 保管申請にあたっては、本人が直接法務局に行って手続きを行う必要があり、手間がかかる。 - 費用がかかる
→ 法務局での保管には保管申請手数料がかかる。また、閲覧をする場合や証明書を発行してもらうときなどにも費用が発生する。 - 遺言内容の適法性までは保証されない
→ 預ける際、形式的な要件をクリアできているかどうかが確認されるが、遺言内容まではチェックされない。そのため法務局に預かってもらい検認が不要になったとしても、必ずしも記載した通りの遺贈が実行されるとは限らない。
公証役場で保管する場合の注意点
公正証書遺言として作成した場合は、原本が公証役場で保管されます。
法務局の保管制度を利用する場合同様、安全性が高く、遺言者が亡くなった後の検認手続きが必要ないなどのメリットを持ちます。
ただし、以下の点には注意しましょう。
- 遺言書の存在は自動通知されない
→ 原本が公証役場で安全に保管されますが、遺言者が亡くなった後で相続人に対し通知をしてくれるわけではない。 - 財産の価額に応じた手数料が発生する
→ 公正証書遺言の作成にあたって、公証人への手数料の支払いが必要となる。このときの手数料は、遺言書に記載した財産の価額により定まり、特に大きな財産を遺贈するときは費用も大きくなってくる。 - 証人2人が必要である
→ 公正証書遺言の作成には証人2人の立ち合いが必要で、基本的には遺言者が2人を用意しないといけない。この作成条件があることにより、遺言内容が証人には知られてしまう。
保管方法の選び方
完璧な保管方法はありません。上述の通り、各保管方法にメリットとデメリットがありますのでそれぞれの特徴を踏まえてご自身に合った保管場所を選定することが大事です。
その選定におけるポイントをいくつか列挙します。
- どの遺言書を作成したか・・・自筆証書遺言なのか、公正証書遺言なのか、遺言書の種類によって保管できる場所や手続きが異なる。
- 遺言書の存在を隠したいか・・・遺言書の存在や内容を誰にも知られたくないのか、それとも把握しておいてほしいのか。自宅であれば誰にも知られずに隠すことができる。
- 紛失・盗難・改ざん等のリスクの大きさ・・・自然災害のリスク、家族・友人との関係性に基づく盗難や改ざん等の可能性などを考慮する。これらのリスクが大きい場合は法務局や公証役場で保管が望ましい。
- 費用の大きさ・・・専門家や貸金庫、公的機関の利用には費用がかかる。安全性とのバランスも考慮して場所を決める。
これらのポイントを踏まえ、それぞれの保管方法を比較検討してみてください。悩む場合は専門家にご相談ください。ご自身の状況を鑑みてどのように保管すべきか、プロの視点からのアドバイスをもらうことができます。