遺言書の種類を紹介|それぞれの特徴・作成方法やリスクの違い
遺言書の作成方法は法律で定められています。家族や友人などに気持ちを伝えるだけなら自由な形式で作成しても問題ありませんが、財産の分け方などを指定するのなら法律で規定されているルールに従った作成をしないと無効になってしまいます。
また、作成ルールは遺言書の種類によって異なるため十分注意してください。通常、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」から選択することになります。
当記事ではこれら遺言書それぞれの特徴や書き方のポイントを解説します。
自筆証書遺言とは
「自筆証書遺言」は、遺言者の自書によって作成する遺言書です。
1人でも、自宅でも作成することが可能で、もっとも手軽に作成できるタイプといえます。保管方法についても自由です。自宅でそのまま保管してもかまいませんし、銀行の貸金庫に預けることも、あるいは法務局の保管制度を活用して保管し続けることも可能です。
公正証書遺言とは
「公正証書遺言」は、公正証書にした遺言書のことです。
公正証書とは公証役場で作成する公的な文書(公文書)であって、直接的には公証人と呼ばれる公務員が文書を書き記すことになります。そのため遺言者は作成のために公証役場で手続を行う必要があり、自宅で作成することは原則としてできません。また、1人で作成することもできません。
できあがった遺言書原本は公証役場で保管される運用になっており、保管方法についても自由に決めることはできません。
秘密証書遺言とは
「秘密証書遺言」は、遺言内容を秘密にしたまま公証を受けて作成する遺言書のことです。
遺言書本文を作成するときは自宅で1人でも問題ありませんが、その後遺言書が遺言者本人により作成されたという事実を公に認めてもらうため、公証役場での手続を要します。
なお、保管方法については自由です。自宅でも保管してもかまいません。しかし自筆証書遺言のように法務局で保管してもらう制度を活用することはできませんし、公正証書遺言のように公証役場で保管してもらうこともできません。
遺言書を種類別に比較
自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言の3種について、それぞれの特徴を整理します。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
---|---|---|---|
概要 | 遺言者の自書により1人で作成する | 公証役場で作成する | 遺言者が作成して公証役場で公証を受ける |
作成方法 | ・全文、日付、氏名を自書 ・遺言書への押印 ・財産目録は署名と押印があれば自書でなくてもよい | ・証人立ち会いのもと遺言を公証人に口授し、公証人が筆記する ・筆記内容に問題ないことを確認し、署名押印 | ・遺言書とその封に同じ印章で押印 ・証人立ち会いのもと封書を公証人に提出 |
メリット | ・コストがかからない ・作成の手間が少ない ・遺言書の存在を秘密にできる | ・不備が起こりにくい ・安全に保管できる | ・内容の秘密は保ちつつ遺言書の存在を証明できる |
デメリット | ・不備に気付きにくい ・紛失のリスクがある ・検認が必要 | ・コストがかかる ・手間がかかる ・証人には遺言内容を知られる | ・コストがかかる ・手間がかかる ・不備に気付きにくい ・紛失のリスクがある ・検認が必要 |
※検認は、遺言の存在や内容を周知させ、その時点での状態を明確にするための手続。検認以降の偽造・変造を防ぐことはできるが、遺言が有効であることの保証はされない。
手続の厳格さはそれぞれ異なりますが、いずれも法律に則り適式に作成できないと無効になるため、十分注意して慎重に作成作業に取り掛かる必要があるでしょう。
遺言が無効になるリスクについて
自筆証書遺言の場合は法律のプロが関与することなく作成ができてしまいますので、無効になってしまう危険性があります。有効・無効をめぐって紛争が起こることもありますし、遺言自体が有効であっても内容によっては紛争の種となってしまうこともあります。
遺言を訂正する場合にも適式に行わなければならず、ちょっとしたミスが原因で相続人に大きな負担を強いてしまうケースもあるのです。
これは秘密証書遺言においても同じです。秘密証書遺言は、「その遺言書は間違いなく〇〇(遺言者本人)によって作成されたものである」という事実を明確にする効果がありますが、内容に不備が含まれていたり無効になってしまったりする危険性は残ります。
この点、公正証書遺言は公証人が作成に関与するため無効になるリスクが小さいです。自筆証書遺言や秘密証書遺言でも同様に危険性を排除するには、司法書士など法律の専門家にサポートしてもらうことが重要です。
証人や費用の有無について
自筆証書遺言の場合、証人を用意する必要がなく、手間がかかりませんし遺言内容を知られることもありません。
一方、秘密証書遺言や公正証書遺言では証人を用意しないといけません。これはデメリットともとれますが、真意を確認する証人がいるということは適式に作成されたことの担保にもなります。
ただ、手続の際は費用の支払いが発生するという難点があります(遺言目的の価額に応じて数万円以上の手数料)。
保管上のリスクについて
自筆証書遺言および秘密証書遺言は、遺言者自身で保管方法を考えなくてはなりません。自宅で保管すれば費用もかかりませんが、紛失するリスクが大きいですし、利害関係を持つ人物によって隠匿や改ざんをされてしまう危険性もあります。
公正証書遺言に関してはそのような心配がありません。常に原本が公証役場に保管され、勝手に遺言者の家族などが破棄したり書き換えたりすることはできません。
ただ、自筆証書遺言に関しては法務局で保管をする遺言書保管制度が創設されています。費用はかかりますが自筆証書遺言でも安全に保管できるようになっていますので、保管に不安がある場合はこの制度も活用すると良いでしょう。また、同制度による保管をしていれば相続開始後の検認手続が不要で、相続人にかける負担も小さくすることができます。