遺言書作成時の8つの注意点|作成を検討している方が知っておくべき重要事項
遺言書を作成することで相続に備えることができます。相続人間のトラブルを防ぎ、円滑な相続手続きを実現するためにも遺言書は有用な存在です。
しかし、その効果が得られる、法的に有効な遺言書を作成するためには、法律上の知識を含めいくつか知っておくべき重要事項があります。
当記事では特に押さえておきたい注意点を8つにまとめましたので、遺言書作成を検討している方はぜひご一読ください。
注意点1:遺言書の種類と特徴の理解
まずは「遺言書にも種類がありそれぞれに作成方法が異なる」という点を押さえておきましょう。
よく利用されるものとして自筆証書遺言と公正証書遺言が挙げられます。
自筆証書遺言の特徴 | 公正証書遺言の特徴 |
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役所を利用する必要がなく遺言者1人で作成可能で、費用や手間が小さい。ただし、遺言書の全文・作成日付・氏名を遺言者が自筆で記載しなければならない。手書きをしていなければ法的には無効な遺言書となってしまう。 | 公証役場での手続きが必要な遺言書で、公証人が作成に関与する。そのため形式面上のリスクは低く、安全性が高いといえる。ただし、作成には2人以上の証人を立ち会わせる必要があり、費用も発生する。 |
なお、遺言書の種類が違っても遺言の効力に差が生じるわけではありません。主に作成過程や形式不備など安全性の面に差があります。
注意点2:法律上の要件を確実に満たすこと
注意点の2つ目は「法律上の要件を満たし、法的に有効な遺言書を作ること」です。
前項で紹介したとおり、遺言書の種類別に作成方法が法定されていますので、少なくともその要件は満たさなくてはなりません。
このことに加え、どの遺言書にも共通して求められる「作成者の遺言能力」にも着目してください。
遺言能力とは、遺言内容やそこから生じる結果を理解して適切な判断を下せる能力を意味し、遺言能力がないまま作成した遺言書は無効となります。
もし遺言者が認知症に罹患している、あるいはその疑いがあるなど、判断能力に不安があるのなら作成時点における医師の診断書や検査結果を残しておきましょう。こうした客観的な資料により遺言能力があったという事実を証明できるようにすべきです。
可能なら、専門家立ち会いのもとで遺言書を作成することも検討してください。
注意点3:財産や相続人の情報を整理しておく
適切な遺言内容を記載するため、相続人の負担を軽くするため、「遺言書を作成する時点での財産や推定相続人などの情報を整理しておくこと」をおすすめします。
現状、どのような財産が残っているのか、そして当該財産の詳細な情報までまとめておくと、相続開始後に相続人が調査を行う手間が少なくて済みます。
たとえば不動産なら、登記事項証明書を取得し、所在・地番・地目・地積・家屋番号・構造・床面積などを明らかにしておきます。
預貯金なら銀行名・支店名・口座番号など、株式なら銘柄名と株数など、その他の財産についても第三者が特定できるよう詳細に記録しておきましょう。
相続人情報についても同様です。戸籍情報に基づき、その時点で相続人になると思われる人物を挙げて、続柄・生年月日・住所などの情報を記録しておくと相続開始後の調査がスムーズになります。
注意点4:相続開始後のトラブルを想定する
遺言内容を検討するときは、「この内容を書くことで相続人同士・親族間でトラブルにならないだろうか」「すでにある問題を解決するにはどうすればいいだろうか」と考えることが重要です。
たとえば、子どもが4人いたとしても遺言書を使えば1人だけに全財産を与えることも可能です。
これを実現できるのが遺言書の良さでもありますが、その遺言をきっかけに人間関係が悪化する可能性も否めません。
また、極端に偏った遺産分配を指定すると遺留分の問題も発生します。一定の相続人には遺留分が法的に認められていますので、法定相続分の半分あるいは1/3程度を遺留分侵害者に対して請求することができるのです。
このやり取りをめぐって揉める危険性もあるため、できればあらかじめ遺留分を想定した遺言内容にするなど工夫を施しておきましょう。
注意点5:付言事項の有効活用
財産の分配方法などを記載すると、その指定内容には法的効力が生じます。
一方で、法的な効力を持たない付言事項というものもあります。
強制力を持たない単なるメッセージですが、「付言事項を活用すれば相続人間の紛争を予防できる可能性がある」ということは留意しておくと良いでしょう。
たとえば遺産分割の理由、遺言者の想い、各相続人への感謝の気持ちなどを記載することが相続人間の対立を防ぎ円満な相続の実現につながります。
注意点6:安全な保管方法の検討
適切な方法で作成した遺言書でも、その後の管理が不適切で紛失・滅失してしまうと意味をなしません。
そこで「作成した遺言書を安全に保管する方法を考える」ことにも注意してください。
公正証書遺言については作成を行った公証役場で原本を保管してもらえるため心配する必要はありませんが、自筆証書遺言については保管が自己責任です。
自宅や銀行の金庫、専門家や友人に保管を頼むなど方法はさまざまですが、その際以下のポイントを留意してください。
- 紛失しないようにする
- 改ざんのリスクがある方法は避ける
- 相続開始後に遺言書を見つけてもらえるようにする
法務局に預けることでこれらの問題を解決することも可能です。
費用はかかりますが、安全性が高く、また検認と呼ばれる手続きを相続人が行う必要がないためおすすめです。
注意点7:早めに着手すること
遺言書の作成が早すぎるということはありません。むしろ「判断力に支障をきたす前に、早めに作成に着手すること」が重要です。
遺言書は繰り返し作成することもできますし、一度作成したものを破棄することも可能です。
必要なくなれば破棄をすればいいのであって、早く作成することに大きなデメリットはありません。
また、早く取り組むことで相続に関わる情報をご自身でも把握することができ、相続に向けて解決すべき問題に気付くきっかけになることもあります。
注意点8:遺言執行者の指定も要検討
遺言書に記載した内容が法的に有効であっても、財産移転等の措置がそのとおりに実施されなければ実現されません。
また、工夫して考えた遺産分割の方法が複雑であると相続人にかかる労力が大きく、負担となってしまいます。
こうした問題を解決するため、「遺言執行者を指定することの検討」もおすすめします。
遺言執行者とは遺言の内容を実現することを職務とする人物のことで、遺言書を使って指定することができます。
指定は必須ではないものの、この人物がいると相続手続きがスムーズかつトラブルのリスクも回避しやすくなります。
※「相続人の廃除」や「子の認知」などは遺言執行者がいなければ実行できない。
信頼できる相続人、あるいは司法書士などの専門家に頼んで遺言執行者として選任することも一般的です。