相続登記を司法書士に依頼する5つのメリットと注意点について
不動産の所有者は登記を行います。登記を行わなければ不動産に係る権利を守れないからです。相続により不動産を取得した場合、売買などで取得した場合とは取り扱いが異なりますが、登記なく権利が守れるとは限りません。
登記申請はご自身で行うこともできるのですが、一般的には登記のプロである司法書士に依頼して対応します。司法書士に手続を行ってもらうことで様々なメリットが得られるからです。
ご依頼主にとって具体的にどのようなメリットがあるのか、この記事で紹介していきます。
相続登記の概要
相続開始後、相続財産に不動産が含まれる場合、次の手続を進めていくことになります。
1.物件の調査
相続対象になる不動産を調べる。所有者、担保権者の存在、固定資産評価額などを調査
2.相続人の確認
被相続人の配偶者や子、孫、両親、兄弟姉妹などを調べて、法定相続人を確定させる。相続人の調査は、被相続人の戸籍謄本の取得により進める
3.必要書類の収集と作成
登記申請をするための準備として、必要書類の収集あるいは作成を行う
4.登記申請
窓口申請、郵送申請、オンライン申請のいずれかの方法により申請を行う
これらの作業はご自身で行うことも可能ですが、一つひとつ大変な作業です。
なお、現状は相続登記が義務とはされていませんが、法改正により2024年4月1日から申請が義務化されます。正当な理由なく申請をしない場合、10万円以下の過料が科されることがありますので、要注意です。
参照:法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」
相続登記を司法書士に依頼するメリット
では、上記の相続登記に関する手続を司法書士に依頼することでどのようなメリットが得られるのか、紹介していきます。
手続の手間が大幅に減る
司法書士に依頼するメリットの1つは「手続の手間が大幅に減る」ということです。
上に示した通り、相続により不動産を取得し、ご自身の名義に移転させるには多くの手続を進めていかなくてはなりません。必要書類を網羅的に集めていくだけでも大変な作業です。平日の日中、仕事で手を離すことが難しいという方にとってはその時間を確保するだけでも苦労することでしょう。
例えば次のような書類を集めていかなくてはなりません。
相続登記までに集める書類 | 詳細 | |
---|---|---|
被相続人の戸籍謄本・除票 | ・相続人の確定のために使用する ・転籍や婚姻をしている場合などには、それ以前の本籍所在地の自治体にて、改正原戸籍や除籍謄本を取得しないといけない | |
相続人全員の印鑑証明書と住民票 | ・相続登記では印鑑証明書が必要 ・不動産を取得する人物のみならず、全員分を用意する ※相続人が1人、遺言書がある、調停調書がある、といった場合では印鑑証明書不要 | |
不動産の固定資産評価証明書・全部事項証明書 | ・相続登記を行う際の登録免許税を計算するために使う | |
遺産分割協議書・遺言書 | ・法定相続分以外で相続するときに必要 ・誰が何を、どれだけ取得したのかを示す資料として使える ・遺言に従い取得する場合は遺言書も必要 | |
登記申請書 | ・登記所に申請を行うための書類 ・発行してもらうのではなく、作成する必要がある |
手続の不備によるリスクを回避できる
相続登記の申請や申請に向けての準備過程でミスがあると、様々なリスクが生じます。一方、司法書士に依頼することで「手続の不備によるリスク回避ができる」というメリットが得られます。
不備により登記がきちんとできていない場合は、第一に「所有者であることを第三者に主張することが難しくなる」という問題が生じます。民法の規定が根拠となります。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
第三者に対して「不動産の所有権は自分が持っている」ということを主張し、当該物件を守るためには登記がないといけないのです。第三者が「これは私の不動産だ」と主張してきたとき、登記があれば簡単に退けることができるところ、登記を怠っていると争いが長期化するおそれが生じます。さらには第三者に不動産を取得されてしまう危険まであります。
このことに付随して「不動産の売却ができない」という問題も生じます。
不動産取引は、上記対抗要件の問題から、登記の情報を信頼して行います。そのため当該物件を売ろうと考えても、登記に自らの名義が記されていなければ、取引の相手方は不安に感じることでしょう。“怪しい”物件になってしまい、取引が成立しない可能性が高くなります。
司法書士に依頼すればご自身で対応するより確実です。これらの危険に晒されるリスクが小さくなります。
物件の状況を正確に把握できる
司法書士に対応してもらうことで「物件の状況を正確に把握できるようになる」というメリットも得られます。
申請までの調査過程で、認識できていなかった物件の存在や、通路部分などの共有持分の存在が見つかることもあります。
また、登記記録から抵当権の記録が見つかることもあります。放置してしまうと今後の手続が複雑化するなどのおそれがあるため、抹消をするなどの対応を取ることが大切です。
司法書士に頼むことで、単に登記申請を代わりに行うだけでなく、関連する諸問題に気づくこともできるようになります。
相続登記に関する個別の問題へのアドバイスがもらえる
法務局でも相続登記に関する相談をすることはできます。しかし法務局で教えてもらえるのは登記に係る基本的なルールであって、個人的な法的アドバイスまで期待できるものではありません。
この点、司法書士への相談であれば「相続登記に関する個別の問題へのアドバイスがもらえる」というメリットも得られます。
また、遺産分割の手法であったり遺産分割協議書の作成であったり、その他関連する手続について助言を求めることができます。
遺産分割協議でのトラブルを防ぎやすくなる
前項の内容とも関わることですが「遺産分割協議でのトラブルが防ぎやすくなる」というメリットも挙げられます。
誰がどの財産を取得するのか、相続人だけで話し合いをしていると揉める可能性があります。相続が開始される以前から親族間の関係性が悪い場合、トラブルに発展するリスクは大きいです。
しかし司法書士という、中立で、専門的知見を持つ人物が間に入れば協議もスムーズに進めやすくなります。参加者も感情的になりにくく、建設的な話し合いが期待できます。
司法書士への依頼で注意すること
司法書士に相続登記を依頼すれば、上記の様々なメリットが得られますが、いくつか注意すべきこともあります。
1つは「依頼費用がかかる」ということ、もう1つは「訴訟代理人になれないことがある」ということです。
前者の依頼費用に関しては依頼先の事務所によって異なります。依頼したい仕事の範囲にもよりますので、具体的な金額は、正式依頼の前に相談してよく確認しておく必要があります。
後者に関してですが、基本的に、紛争に加入して解決をする活動は弁護士の所掌範囲とされています。法律により弁護士以外の者がその対応をすることは禁じられています。例外的に、法務大臣の認定を受けた司法書士なら、訴額140万円以下の事件につき訴訟代理人になることは可能です。しかしながら不動産が争いのタネになっている場合、訴額140万円以下という要件を満たすことは難しくなってしまいます。そのため不動産の取得などにつき争いが生じてしまうと、司法書士による一貫したサポートは難しくなってしまうのです。
ただ、訴訟問題にまで発展する例は稀といえます。費用の問題もありますが、弁護士に比べて司法書士への依頼の方が費用も抑えられる傾向にありますので、費用対効果高く相続登記に対応することができるでしょう。