相続登記が間に合わないかも!相続人が取るべき対応とは?
不動産を相続したときの登記申請は法律上の義務です。法改正を受け近年相続登記は義務化され、3年以内の申請が必要となりました。
しかし、「相続人の数が多く手続きがなかなか進まない」「遺産分割協議が長引いている」「不動産の把握や必要書類の準備に時間がかかっている」などの事情により期限内の手続きが困難なケースも今後発生することでしょう。
このような場面で相続人がどのように対応すべきかを確認していきましょう。
期限に間に合わないケースとは
相続登記を期限内に完了させるのが難しくなる要因はたくさんあります。次のような事情があると相続手続きに時間がかかり、登記申請が間に合わなくなる可能性が高まりますので、注意すべきです。
相続手続きにかかる時間が長くなる要因 | |
|---|---|
遺産分割協議が難航する | 相続人が多数いる場合や相続人同士の意見が対立している場合、話し合いが長期化する。特に不動産の評価額が大きい場合や、相続人の居住地が離れている場合には、合意形成に時間を要するケースが多い。 また、相続人同士の関係性が良好でない場合、遺産に対する価値観に相違がある場合にも、なかなか問題が解決しない。 |
書類収集に時間がかかる | 相続登記の申請に取り掛かるまでには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑登録証明書、固定資産評価証明書など多数の書類を集める必要があり、これらの準備に時間がかかることもある。 |
相続人の確定が難しい | 数次相続(相続手続きが完了する前に、相続人の1人が亡くなって二次相続が開始されること)が発生している場合、相続人を確定するだけで相当な時間を要することがある。 戸籍を辿って相続人を調査する過程で、認知している子や養子などの存在が判明し、さらに調査が必要になることもある。 |
相続人と連絡が取れない | 住所が不明な相続人、連絡を意図的に避けている相続人がいると、遺産分割協議を進めることができない。戸籍の附票を取得して住所を調べ、手紙を送付するなどして連絡を取る必要がある。 |
間に合わないおそれがあるときの対応
なかなか相続登記の手続きに着手できそうにない場合、あるいはまだその段階に至っていないが遅れる可能性を下げたい場合は、以下の対応を試みましょう。
- 必要書類を効率的に収集する
- 遺産分割協議が円滑に進むよう工夫する
- 連絡が取れない者に対する制度を利用する
- 相続人申告登記の制度を利用する
各対応の詳細を説明していきます。
必要書類を効率的に収集する
各種手続きを始めるには、書類の収集が欠かせません。
集めるべき書類は手続きの内容にもよりますが、相続においては「戸籍謄本等」がもっとも重要な存在といえます。これは被相続人が亡くなったという事実や自らが相続人であることを証明するために欠かせないものです。
戸籍謄本は全国どこからでも請求できるようになったため効率的に集めやすくなっていますが、どれだけの範囲で集める必要があるのかは把握しておかないといけません。
また、効率的に進めるためには「法定相続情報一覧図」の作成も有効です。法務局が認証した、相続関係をまとめた家系図のようなもので、一度認証を受けておけばその後戸籍謄本の取得等の取得にかかる負担を軽減することができます。
さらに、その他手続きにおいても共通していえることですが、できるだけ効率的かつミスなく進めるには、司法書士などプロの力を借りるのが一番です。司法書士の職権で取得手続きを代理できますので、少しでも不安のある方は一度相談してみることをおすすめします。
遺産分割協議が円滑に進むよう工夫する
もっとも揉める危険性が高いのは「遺産分割協議」です。特に資産価値の高い物件、活用しやすい物件については、取り合いになりトラブルになることも珍しくありません。
そこで遺産分割協議を円滑に進めるため、まずは相続財産を詳細まで明確にし、相続人全員で情報を共有することに努めましょう。不動産の評価額、預貯金の残高、借金の有無などをよく調査して明らかにし、相続財産目録を作成して相続人間で確認し合います。
話し合いに不安があるときは利害関係者である相続人だけではなく、中立的な立場の人物も間に立たせると良いかもしれません。第三者の専門家が介入することで解決の糸口が見つかることもあります。
もし話し合いがまとまらないなら、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することも検討します。調停では、裁判所の調停委員が中立的な立場で話し合いを仲裁し、合意形成をサポートしてくれます。調停は非公開ですし、プライバシーも保護されますので安心です。
連絡が取れない者に対する制度を利用する
相続人と連絡が取れないケースでは、まず「戸籍の附票」を取得して現在の住所を確認しましょう。住所がわかれば、事情を説明する手紙を特定記録郵便などで送付し、連絡を促します。手紙が届いているにも関わらず返答がないときは直接訪問することも考えましょう。
いろいろと試しても連絡が取れないケースでは、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。不在者財産管理人は、行方不明者に代わって当人の財産を管理するための人物です。家庭裁判所から許可を得ることができれば、遺産分割協議に参加してもらい、相続手続きを進めることも可能です。
一方、行方不明ではないものの一切の協力が得られず遺産分割が頓挫しているケースでは、遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てて、裁判所から相手の住所へ呼び出し状を送ってもらうことも考えましょう。裁判所からの連絡であれば連絡を無視していた相続人でも応じる可能性が高くなります。
相続人申告登記の制度を利用する
相続登記の義務化と同時に新たに用意された仕組み、「相続人申告登記」があります。
自らが登記簿上の所有者の相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の義務を一時的に履行するための仕組みです。
不動産を取得する人物が確定する前段階でも着手でき、必要書類や手続き内容も簡素で、迅速に登記義務を履行したことにできます。
そのため、間に合いそうにないと思われるケースではひとまず相続人申告登記を済ましておくと良いでしょう。
※あくまで一時的な措置であるため、後々遺産分割協議が成立したときはその結果に基づく正式な登記を別途行う義務が生じる。
改正法施行前に相続した不動産にも注意
相続登記のルールで注視したいのが、「改正法が施行された2024年4月より前に相続した不動産についても義務化の対象」という点です。
以前は義務ではなかったため、登記を行わず放置していた方もいるかもしれません。しかし改正後のルールがそれらの物件にも適用されるため、未登記の方は遅くとも2027年3月31日までに登記を完了させなければなりません。
古い相続では相続人がすでに亡くなっていて相続関係がかなり複雑化している危険性もありますので、早めに未登記の物件がないか確認するようにしてください。
