よくある相続トラブルと問題を未然に防ぐための対策を紹介
相続に伴ってトラブルが起こることも珍しくありません。トラブルの内容は千差万別でこれを未然に防ぐための対策を打つのも簡単なことではありませんが、起こりやすいトラブルがあるのも確かです。
そこで多くの方に共通しておすすめできる対策もありますので、当記事でよくある相続トラブルについて触れ、その問題を未然に防ぐための対策を紹介していきます。
よくある相続トラブルとは
相続は人が亡くなることで開始されます。このときの亡くなった本人は「被相続人」と呼ばれ、この被相続人の持っていた財産を引き継ぐ配偶者や子どもなどは「相続人」と呼ばれます。
相続開始後は亡くなった方の財産をめぐって協議や手続を進めていくことになり、次のようなトラブルが起こる可能性があります。
相続トラブルの例 | 詳細 |
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遺産の取得をめぐって | 遺産について、誰が・なにを・どれだけ取得するのかを遺産分割協議で取りまとめていく。しかしその場で話がまとまらず、揉めてしまうケースもある。 |
遺贈を受ける第三者と | 被相続人が遺言書を作成すれば、相続人以外にも遺産を譲り渡すことができる。しかし遺産を相続できるものと思っている相続人がこの遺贈に対し強い不満を抱くケースもある。 |
遺言書の内容に不満がある | 第三者に対する遺贈のみならず、相続人間での遺産分割の方法や各々の取得財産なども遺言書を使って指定することができる。しかしその内容に納得できず、仲違いを起こすケースもある。 |
遺産に借金がある | 遺産に借金が含まれている場合、そのまま相続を受け入れると相続人が借金も取得することになり、その後相続人が借金の返済に追われてしまうケースもある。 |
相続人の一部が | 遺産は早い者勝ちで取得するものではなく、遺言書による指定や相続人全員の同意に基づく遺産分割協議で決める必要がある。しかし相続人の一部が遺産を隠し持っていて、後にその事実が発覚してトラブルに発展するケースもある。 |
相続人が遺産を | 遺産を隠す意図はないものの、相続人の一部が遺産を勝手に処分してしまうケースがある。これにより相続放棄や限定承認ができなくなったり、他の相続人が特定の財産を取得できなくなったりといった問題が起こる。 |
相続税の負担で困る | 多額の遺産が存在している場合、相続税の負担が相続人にかかる。厳密な税の計算、申告書の作成、納税などを行わなければならず手間もかかる。 大きな労力を要することに加え、遺産が現金化できず納税資金の工面で困るケースもある。 |
相続トラブルの発生を防ぐための対策
相続トラブルが現実に起こるのは、被相続人となる方が亡くなってからです。そのため個別具体的な対策を打つのは難しいかもしれません。しかし、親族の関係性や財産状況などからある程度予測を立てられることもあります。
まずは以下の対策について検討を進めてみましょう。
相続についての最低限の知識を備えておく
「相続についての最低限の知識を備えておくこと」は、被相続人にとっても相続人となる方にとっても重要なことです。
適切な知識を持たないまま相続が開始されると、無意識のうちに法的なトラブルや家族間の対立を生むリスクが高まります。遺産分割前に遺産に手を加えてしまい、勝手に処分したり不適切な管理をしてしまったりしてしまうと、相続人同士の紛争を生むことになるかもしれません。また、相続財産に対する債権者との間で揉めるおそれもあります。
少しでも相続についてのルールを知っておくことで防げるトラブルはたくさんあります。とはいえ、一般の方が相続についての学びを始めるのはハードル高く感じることでしょう。してはいけない行為を押さえておくだけでも十分ですが、不安や手間を考えれば司法書士、弁護士などのプロに相談することが効率的といえます。
相続について家族とよく話し合っておく
相続の問題は多くの場合、法的な要因だけでなく感情や人間関係の要因も影響しています。後者に関しては、事前のコミュニケーションの欠如がその主な原因となることが多いです。
結果的に、遺産の取得をめぐって親族内で揉めてしまうケースもよくあります。遺産の中には金銭的に大きな価値を持つものもありますし、思い入れがあるという意味で家族にとって大きな価値を持つ物もあります。
これらの分配方法についても含めて事前に話し合い、納得が得られた状態であれば相続が始まっても大きなトラブルには発展しにくいです。すべての事柄につき納得を得るのは難しいかもしれませんが、事前に話し合いの機会を設けておくだけでも防げることはあります。
また、相続人にはならない親しい友人などに財産を渡したい場合は遺言書を作成することでその効力を生じさせることができます。この点についても家族に話しておくと良いでしょう。いざ相続が始まってから予想外に相続分が少ないことに気が付くケースに比べて、揉め事も起こりにくいです。
財産の把握・整理をしておく
被相続人が生前に財産をしっかりと把握・整理し、家族や相続人に情報を提供することで大きくリスクを減少させられることもあります。
特に、財産関係が複雑である場合や借金が残っている場合です。
例えば個人事業を営んでいる場合、事業用財産も遺産の一部となりますので、一般的な相続に比べて遺産調査も大変な作業となります。資産家の方であれば、複数の不動産や株式、その他高価な家財や貴金属などを多く持っていることもあるでしょう。財産状況を一番理解している本人がこれらを取りまとめて一覧にしておけば相続人に大変な思いをさせずに済みます。
多額の借金が残っている場合にも要注意です。その事実を知らないまま相続を承認してしまい、相続人に返済の肩代わりをさせてしまうことになるかもしれません。どの金融機関からいくら借りているのかを整理し、借金以外にも負債がある場合はすべて整理しておくと相続人のためになります。
また、財産を整理して相続人が遺産の内容を容易に判別できるようにしておけば「相続人の一部が遺産を隠し持っている」といった問題も防ぎやすくなります。財産の内容が把握されている以上、隠し持っていることもすぐに気づくことができるからです。
財産目録を作成する場合は、できれば各財産の価額についてもまとめておきましょう。
生前贈与や不動産取引などを行う
生前贈与や不動産取引はあくまで手段の1つに過ぎず、ここで特に述べたいのは「節税対策」と「相続開始後の相続人の生活保障」です。
生前贈与はその名の通り、亡くなる前にする贈与のことです。遺産分割協議は亡くなった後に行われるものですので、確実に渡しておきたい財産があるのなら生前贈与を行っておくべきです。
贈与税が課税されることも忘れず、特例の利用も視野に生活資金等の贈与を検討すると良いでしょう。
不動産取引については、①所有する不動産を売却することと、逆に②不動産を購入することの2パターンがあります。
相続後の不動産の管理や分割方法で問題が起こりそうな場合などには、これを売却(①)して現金化しておくというやり方もあります。あまり有効活用できない物件である場合は、事前に売却の手続を済ませておくことも相続人のためになります。
しかしながら、基本的には不動産より現金の方が相続税の負担は大きくなる傾向にあります。そこで現金が多く残っているときは不動産を購入(②)して課税価格を下げるという手法も考えられます。これをさらに賃貸に出すなどすれば継続的に収入が得られ、相続人の生活保障にもつながります。
節税対策に関しては他にも多数の手段がありますので、多額の財産が残っているという場合は事前に税理士に相談しておくことが推奨されます。
納税資金を備えておく
相続税に関しては、節税のみならず「納税資金を備えておくこと」も重要です。
不動産を購入するなどして現金、預貯金を少なくすることで節税効果は得られるかもしれません。しかし納税するための資金がほとんどない場合、相続人が納税分の現金負担を追うことになります。
それ以上の金銭的価値を相続により得ることはできますが、結局納税の負担に耐えられないときは財産を売却するなどの手間が生じます。
結局のところ相続トラブルは多様な要因が絡み合って引き起こされるものですので、1つのことだけに集中して対策を講じるのではなく、広い視野を持って取り組むことが重要です。総合的にバランスの取れた対策を取るためにも、相続に強いプロの意見も求めると良いです。