相続の対象になる財産や人の範囲について解説
相続が開始されると、亡くなった方の財産や相続人の調査を始めなくてはなりません。この作業を行うことには、当該相続の影響が及ぶ範囲を確定する意義があります。具体的にどのような財産が相続の対象となるのか、また、その財産を承継することになる相続人の範囲について以下で解説していきます。
相続の対象になる財産
相続の対象になる財産は大きく「積極財産」と「消極財産」の2つに分けることができます。
いずれも後述する相続人が引き継ぐことになる財産ですが、引き継いだ後の経済的影響は真逆です。
それぞれ具体例を見ていきましょう。
積極財産の例
積極財産とは、プラスの価値を持つ財産を指します。つまり相続人としてはできるだけ積極財産が多い方が良いと言えます。
以下にその例を示します。
・不動産
- 土地(宅地や農地、山林など)
- 土地の上に存する権利
- 建物(戸建住宅、マンションなど)
- ・現金、預貯金
- ・動産(自動車、腕時計など)
- ・ 有価証券
- 株式
- 社債
- 国債証券
- 手形
- 小切手
・債権(貸付金債権や税金の還付金債権、損害賠償請求権など)
・知的財産権(著作権や工業所有権など)
・事業用財産(売掛金、機械器具、農耕具、商品・製品の在庫、原材料など)
消極財産の例
消極財産とはマイナスの価値を持つ財産を指します。つまり相続人としてはできるだけ消極財産が少ない方が良いと言えます。
以下にその例を示します。
・借入金(住宅や自動車のローンの残債務、クレジットの残債務など)
・賃貸住宅や借地の未払いとなっている賃借料
・未払となっている水道光熱費、通信費など
・保証債務
・未納の税金(所得税や住民税、固定資産税、相続税、贈与税など)
・未納の国民健康保険料
・葬式費用
特に被相続人が個人事業主、フリーランスなどとして事業を営んでいた場合には要注意です。
事業から発生した債務が残っている可能性があり、財産関係が複雑になるおそれがあります。そのため相続開始後の財産調査はより慎重に行う必要があります。
相続の対象にならないもの
民法では以下の規定が置かれています。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
引用:民法 第896条
同条前段部分は上に挙げた多様な財産のことです。一切の権利義務などが相続人に承継されるとあります。
他方、同条後段部分は例外的に相続の対象から外れるものとして「被相続人の一身専属的なもの」が挙げられています。
これは例えば被相続人が有していた資格や技能などが挙げられます。こうしてみると相続されないのは当たり前のように思えますが、「年金受給権」「生活保護受給権」なども被相続人の身分が前提となる一身専属のものですので注意しましょう。
相続人の範囲
続いて相続の対象になる「人」に着目してみましょう。
遺産を受け取ることができる「相続人」として第一に挙げられるのが配偶者です。被相続人の夫や妻は相続開始時点で生存していれば常に相続人になります。
法定相続分や控除制度などを見ても配偶者が特別な扱いになっていることがわかります。
これは配偶者という立場が被相続人にもっとも近い存在であることに由来します。
なお、相続に関する恩恵が得られるのは法律婚をしている配偶者に限られますので要注意です。
次点で重要な立場にあるのが「子」です。
配偶者に次いで大きな法定相続分を持ち、子の人数が多いとその分取得財産は少なくなりますが、配偶者と子1人だけが相続人であればそれぞれ2分の1ずつの割合で遺産を受け取ることが可能です。
このように、相続人は被相続人から見て法的に近しい関係にある人物が該当します。
重要なのは法的に近いと言えなければならないという点であり、いくら仲の良い関係性にあっても友人は相続人になれません。
※介護をしていたなど特別の寄与があったなら相続人に対し寄与料の請求はできる
その他相続人になり得る者の例として以下が挙げられます。
・親
・孫、ひ孫
・兄弟姉妹
・甥や姪
相続人を調べる方法
通常、被相続人の配偶者や子がわからないというケースはあまりありませんが、隠れた相続人が出てくることがあります。
遺産分割協議の後で相続人が出てくると、協議のやり直しが必要になりますし、非常に手間もかかってしまいます。そこで事前に相続人調査をしっかりと行っていることが大切です。
相続人を調べるためには、「亡くなった人の、出生~死亡まで連続した戸籍謄本」の収集が必要です。結婚したり法改正があったりすると新たに戸籍謄本が作られ、複数の戸籍謄本取得が必要になりますので注意しましょう。
入手するには、戸籍が置かれている市町村役場または登記所の窓口での問い合わせ、あるいは郵送での請求などの手続が必要です。代理人に依頼して収集してもらうこともできますので、何を準備しなければならないのか、といったことも併せて相続の専門家に相談・依頼すると良いでしょう。